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李朝 不完全の美

 李朝物といっても陶磁器をはじめ、民画、墨蹟、木製品、漆工芸、染織など大衆日用品の多岐に渡っています。今回は白磁、染付など一部の陶磁器についてお話したいと思います。李朝の基本情報は2020/10/15投稿のブログ「日本人に長く愛でられてきた韓国の焼物が奏でる魅力とは?」で扱っていますのでそちらをご覧ください。

李朝美発見

古くは戦国武将を始め利休等の茶道の関係者が高麗茶碗に魅了されたのがはじまりでした。近代になって浅川伯教(朝鮮古陶磁研究者)、弟の巧(林業技術者・朝鮮工芸研究者)兄弟が、李朝時代(1392〜1910年)の日用雑器に美を見出し、柳宗悦を筆頭に民芸運動に携わった数名で、日本を初め本国韓国の人たちに李朝美の素晴らしさを開眼させました。

不完全の美

李朝陶磁器の特徴である「歪み、厚手のどっしり感、素朴さ」は利休以来の侘び、寂を尊ぶ日本人の心を鷲づかみにしました。

李朝以前の朝鮮王朝は中国渡りのシンメトリーで薄手、上品さが好まれた時代でした。李朝雑器は宮廷感覚には程遠い仕上がりです。「完全の美」に「不完全の美」が肩を並べるという偉業を日本の民芸愛好家がなし得ました。

日本人好み

日本の古陶磁愛好家の多くが李朝陶磁を所有しています。無名の工人達が生み出した李朝陶磁の素朴さは「日本人は信楽と李朝で死ねる」といわせる程です。

さて、問題です。
完璧主義のA型血液が多い日本人に何故こうも李朝物大好き!手放せない!もっと欲しい!と陶酔する人々が大勢いるのでしょう? 

李朝の魅力あるある

李朝物は愛でる人を拒まず受け入れてくれます。媚びず、へりくだることなくガツンと己を持っている感が魅力です。貧しい中にも生活を楽しんで生きた土着性の現れでしょうか、根強いゆったり感が見る人の心を大らかにさせてくれます。さらに眺め続けていると無骨さの中にこっそりと隠れていた気品が滲み出てくるように感じられます。良いですよねー。たまらん魅力です。

 一つ手元において生涯じっくりと付き合えば最良の友となってくれるでしょう。

李朝器 誕生の背景

しかし、何故このような味わいの品が李朝時代に生まれたのでしょう。

一説に李朝時代(約500年間)は仏教にかわり朱子学(儒教)の世となり、抑仏崇儒政策で生活様式が一変したからだと推測されています。簡素を好む思想からでしょうか?

焼物も15世紀初頭で清潔で簡素な器が主流になり、中でも白磁は王家の器とされ一時期一般国民の白磁器使用を禁じた程です。この時代は世界的に陶磁器に白磁が絶対なるあこがれでした。

李朝陶磁の大らかさ、素朴さ、暖かさは李王朝特有の産物です。ですが毒殺を恐れた王宮では銀の食器を多岐に採用し、利用頻度の減った陶磁器は進歩、発展を王朝から期待されずに巷で生き延びたのではないでしょうか。

長年、実用一辺倒の焼物でしたから過剰な美意識に毒されることも無く、陶工達の素直な感覚と屈託の無い仕上がりが今日に至り、李朝美を愛する趣味人にとって幸な結果となりました。

15世中頃には白磁にコバルト顔料で絵付けをした染付が生産されましたが、中国に頼っていたコバルト顔料が輸入困難になると鉄絵の具で茶色に文様を描く鉄砂(てっしゃ)が登場し、後に赤色に発色する辰砂(しんしゃ)も焼成されました。

陶工職人事情

その昔、陶工達の身分は一般平民より下位の卑賤とされ、仕事を変えることや身分を変えることは許されない制度でした。ゆえに生活も子々孫々貧しい暮らしが続きました。

 秀吉出兵の折に連れ帰られた陶工集団もいましたが、九州諸藩の大名達に好条件を示され、自らヘッド・ハンティングに応じた陶工達もいたようです。彼らが日本の陶磁器の祖となりました。

韓ドラにみる食と李朝食器の関係性

さて、ここで少し脱線します。あくまで私の仮説です。
韓国ドラマを見て気がついた事ですが韓国と日本の食卓マナーの違いです。日本は木製のお箸でご飯と汁の器は手に持つのが普通です。一方、韓国は金属製(銀製)の柄の長いスプーンとお箸が使われています。日常、アワビ粥や雑炊、スープ類が多く登場するためか必ずスプーンを使っています。(皿数の多さは一般家庭でも半端じゃ有りません。主婦は大変)。器はテーブルから持ち上げることはしません。「がっついている」と見なされるからだそうです。

私の勝手な数式ですが、
李朝器(重い)+料理の重さ=重さの二乗(片手で持ち上げるのがおっくう) 
という数式が成り立ちます。結果、器はテーブルに定住するというマナーが出来た。いかがでしょうか。

また、韓国ドラマでは自分のお箸で取り分けたご馳走を相手の器に載せるか直に口に入れて食べさせる場面を多く目にしました(子供も大人も)。日本では自分で使ったお箸は失礼に当たるからと取り箸を使うか、逆さ箸にします。お国柄ですね。
しかし見方を変えれば自分のお箸で相手にあげ、相手も喜んで食べているのを見ると愛情と信頼が深いのかなと感じました。懐が深い李朝美と通ずるところが有るようなないような…。だいぶ脱線してしまいましたがこれで終わりにします。

最後までお読みいただきありがとうございます。
#骨董舎のお留守番でした。



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