骨董舎

文房具 風雅な文人の遊び

「弘法筆を選ばず」
「弘法も筆の誤り」とか弘法大師様でさえ筆の良し悪しに翻弄されたご様子、私が最高級の名筆で書いてもミミズのダンスと言われそう。

書くという行為は言葉の意味を伝えるだけでなく、書体の美しさが重要視される文化に発展しました。

文人のコミュニケーションツール?!

漢字の故郷、中国では漢代には文房具を愛玩(あいがん)する歴史が生まれていました。
宋代になると「文房四宝」という言葉が生まれ、文房具を書斎の机上に飾り、愛用すると共に眺め愛でる風習が文人(知識があり読書家で詩文の才能があり、階級や地位が高い人)の間に起こりました。
「文房四宝」とは書に最も大切な硯、墨、筆、紙の4点を書道具として定めた言葉です。
文人の至上の希望が筆と硯の名品を持つことだったそうです。

もともと「文房」とは中国唐時代に命名された読み書きをする書斎のことでしたが、後に書の道具類をさすようになりました。

書道具には文房四宝の他に筆筒(ひっとう)、文鎮(ぶんちん)、筆架(ひっか)、筆洗(ひっせん)、硯屏(けんびょう)、硯石(すずりいし)、墨床(ぼくしょう)、印材(いんざい)、印章(いんしょう)、水滴(すいてき)、水注(すいちゅう)、椀沈(わんちん)、如意(にょい)、霊芝(れいし)などが名脇役として控えています。

文房具は骨董と同じです。自慢の文房具を一人で愛でるより、書斎で友と語らい鑑賞し合う、または競いあい優越感に浸りたいという人間味溢れる行いです。

文房具は文人同士のコミュニケーションを高めたうえに質の向上にも繋がりました。

高額な逸品だけが良いというのではなく、自分の気に入った品であれば値段に関係なく、それを愛で、楽しめばいいと思います。「みたて」もそうですね。
「みたて」の要素はその人の持ち味が出せる個性美の世界でしょう。

文房具の種類

文房四宝1.墨の良し悪しも決まる 硯(すずり)

石、陶器、瓦、翡翠などの硬玉類、金属、木などがあります。中国で有名な産地は広東省の端渓石、日本では雨畑石(山梨県)・龍渓石(長野県)・玄昌石(宮城県)・赤間石(山口県)が有名です。
形状は長方形、円形、六角形、八角形、硯板(池がない板状の硯)、太史硯、風字硯があげられます。この他にも鑑賞に堪えられるよう自由に形を作り楽しんだようです。

文房四宝2.原料によって特徴がある 紙

紙は中国産の「唐紙」、と日本産の「和紙」とに大きく分けられます。

中国は竹・桑・藁などの繊維を主原料とした紙です。その中で竹の繊維で漉いた紙を「宣紙」といい「画仙紙」とも呼びます。「中国画仙」より「和画仙」は厚みがあり、滲みが少ない特徴があります。
日本の和紙は、三椏・楮・雁皮を主原料とした紙です。唐紙よりも繊維が長く破れにくい作りになっています。
厚さや漉き方などが異なるだけで紙の種類が替わりますので、書きたい目的によって用紙を選ぶ必要があります。

文房四宝3.これがなくちゃ始まらない 筆

書道筆は「四徳」が備わっていることが重要です。「四徳」とは

「尖・せん」穂先が尖っていること
「斉・さい」穂先全体がまとまりきめ細かく整っていること
「円・えん」穂全体がきれいな円錐型になっていること
「健・けん」穂先にコシがあり弾力がよいこと

中国古来より伝わる「四徳」は現代においても筆選びに大切なことです。

材質は動物の毛、馬、山羊、狸、鹿、イタチなど字の大きさや書体により筆の選び方はかわります。現代作家さんたちは思いもよらない形状や素材で自作の筆をつくり絵のような書を発表していますね。

文房四宝4. 心を落ち着かせて作品に向かう 墨

赤松の煤が主原料の「松煙墨」と植物性油の煤が主原料の「油煙墨」があります。油煙や硝煙の煤を膠と膠の動物質の匂い消しに香料を加え練り固めて作ります。

又、鉱物の辰砂、丹砂を粉にして練る朱墨があります。これらの墨を美術工芸品として木型で型を取り、仕上げに模様を彩色する高級品もあります。

現在は墨汁が一般化され、若い人など固形墨を見たことがないという話も聞きます。ここで、恐いお話をしましょう!江戸時代は腕に入れ墨を刺すことで刑罰の一つとしました。現在はオシャレ目的でタトゥが人気ですね。

小さな芸術品 水滴(すいてき)

水滴は墨を擦るとき硯に水を足す道具です。口の小さい物を「水滴」、やや口の大きめの物を「水注・すいちゅう」、水をすくう匙付きのものを「水盂・すいう」と種類分けされています。

机上を飾る 硯屏(けんびょう)

硯屏の役割は硯の頭部に配置し、風やホコリを防ぐのを目的としました。また、風で硯の墨が乾くのを防ぐという用途もあったようです。文具鑑賞を楽しむ時代になってからは机上を飾る鑑賞物としての役目が大になりました。材質は玉、彫金、陶磁器、唐木など多種に渡ります。

日本での文房四宝

日本では、文房四宝を愛でる文化は中国ほど盛んにならなかったようですが、それは机の大きさによるものでしょうか?

日本で書道が一般庶民に広く普及したのは江戸時代です。寺子屋での「読み」「書き」に使われるほどで、書道具は暮らしになくてはならない伝達手段として一般に普及しました。

小学生の頃、書き初めや七夕の短冊に思いを込めて書いた事が懐かしく思い出されます。墨の静謐な匂いは気を静める効果があるそうですよ。

筆ペンに頼り切ってばかりでなく、たまには書道をしてみませんか?
近年、書に関わる製品を作る職人さんがめっきりと減ったそうです。
文化の移り変わりでしょうね。スマホを見る手を休めて、文字を書いて気分転換。職人さんにエールを送りましょう!!

#骨董舎のお留守番でした。

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